読書感想文:川上未映子『黄色い家』
川上未映子『黄色い家』

今まで読んだ小説の中で五指に入る傑作

東村山・渋谷、そして三軒茶屋。いずれかの街に縁がある人は絶対に読んだほうが良い

作者の川上未映子さんは1976年生まれ。1980年代生まれの僕より年上で、作中に登場する三軒茶屋は1999〜2001年ごろだから、2024年現在からすると、25年前になる。

四半世紀も昔の話だ。街の姿も、現在とは色々変わってしまっているだろう。

それでも、三茶に縁がある人なら絶対に読んだほうが良い。僕も、かつて三茶で暮らしていたことがある。

僕が住んでいた時代とは異なるけれども、それでもあの街のキャロットタワーが、マクドナルドが、吉野家が、西友が、記憶から蘇ってくる。

僕は、主人公の花ほど壮絶な人生を歩んできたわけではない。でも、田舎から東京に出てきて1、それなりの貧乏な暮らしをしたことがある人になら、この小説は絶対に刺さるはずだ。

黄色は、風水における金運アップの色だ。つまりは、カネの色だ。生きるためには金が要る。金・金・金。

でも、貧乏で金が必要なやつほど、金に縁がない。いや、金に縁がないから貧乏なのか。この手に掴みかけたチャンスが、指の隙間からすり抜けてゆく。どうしようもない、そんな感覚。

金で苦しんだ事がある人なら、主人公・花の気持ちが痛いほどわかるはず。

それにしても、人生とはどうして、ここまでままならないものなのか。久しぶりに、強く心を揺さぶってくれる小説に出会えた。

帯によると、世界各国で翻訳され始めているようだ。英語での表題は “SISTERS IN YELLOW” だそうで、とても良い響きだ。

海外でも文学賞獲れるんじゃないか? そのぐらい、90年代終わりの日本を生々しく切り取っている。社会的なテーマも内包しており、単なる娯楽に留まっていない傑作であるように感じた。

世紀末を、人生の重要な時期を、三茶で過ごした人は、ぜひ読んでほしい。

  1. 念のため、東村山は東京都である。 ↩︎

Synk

1980年代生まれ。男性。独身。日本在住。IT企業勤務。

現在の関心はうつ病の回復と投資。そして、幸せに生きること。

うつ病という医療に関するセンシティブな話題を扱うため、匿名性を重要視しています。

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